同窓生インタビュー-1 受験しました アドビ認定プロフェッショナル

時代がめまぐるしく変化するなかでデザイナー、クリエイター、アーティストとして長年活動していくためには学び続ける努力が欠かせません。キャリア形成やスキルアップのために、同窓生たちはどのような取り組みをしているのか、インタビュー形式の記事をお届けします。
今回は1993年にD科を卒業した遠藤裕美さんに、アドビ認定プロフェッショナルを受験された体験を伺いました。

*この記事は主Adobe PhotoshopやIllustratorを使用している方の参考となるよう編集されています。

 

聞き手(左):
杉原由美子(D科41期1992年卒)アニメーション監督、脚本家、歌舞伎解説者
語り手(右):
遠藤裕美(D科42期1993年卒)イラストレーター、美大非常勤講師(https://bacio.jp/

アドビ認定プロフェッショナルって何ですか?

杉原:遠藤さんは私の一つ年下、1学年違いですが、高校だけでなく短大も一緒で、その後も仕事仲間として公私ともに長いお付き合いをしてきました。現在はアニメーション番組「むかしばなしのおへや ~伝えたい日本昔話」を一緒に制作しています。今回は、遠藤さんが2022年3月にアドビ認定プロフェッショナルを受験したときのお話を聞かせていただきます。まずは、自己紹介をお願いします。

遠藤:今はフリーランスでイラストを描く仕事がメインです。公になっているものとしては、江東区の観光キャラクター「コトミちゃん」を手がけています。江東区にお立ち寄りいただいたことある方は、一度は目にしたことがあるかもしれません。

杉原:まずは「アドビ認定プロフェッショナル」について簡単に教えてください。

遠藤:アドビ認定プロフェッショナルは、Adobe Creative Cloudを活用するスキルがあることを証明する、アドビが公認する国際認定資格です。PhotoshopやIllustratorどちらか一方だけでも受験することができますが、両方取得すると「Adobe Certified Professional in Visual Design」として認定されます。この制度は私が学生の頃には既にあったと記憶していますが、受験料も高く、当時は資格を取得する必要性を感じませんでした。資格よりもセンスが重要だと思い、成果物、作品を評価してもらうことのほうが大切だと考えていたからです。

杉原:それから30年近く経って、なぜ、今受験しようと思ったのですか? 

遠藤:PhotoshopもIllustratorもかなり初期のバージョンから使用してきましたが、バージョンアップを重ねてインターフェースのアイコンやボタンなどが増えても、イラストを描くことを目的に限定的な機能だけを使ってきました。2019年から美大で非常勤講師をすることになり、テクニックを教える機会も増えてきました。若い人に、今のアプリケーションの機能をちゃんと教えたい、また、自分のためにも資格として持ちたいと思いました。

杉原:学生たちが認定試験を受けることもあると思うので、受験のプロセスを知っているというのは強みになるのでは?

遠藤:学生にとっては履歴書に書ける、就職活動のツールにもなります。受験したい人がいれば、どういう問題が出るのか教えられると思います。

使い方だけではない、気になる出題内容は?

杉原:具体的にどのような問題が出ますか?

遠藤:出題内容は、アプリケーションの使い方だけでなく、デザイナーとして働く上で大事なことも含まれます。プロデューサーやディレクターとの、チームとしての役割分担や、クライアントとどのように話し合い、仕事を進めていくか、というようなワークフローも出題されます。著作権のことも出ます。また、画像のファイル形式や解像度などが印刷用かウェブかによって異なることやPhotoshopとIllustratorの大きな違いとして、ビットマップとべクターの特徴など、知識問題が出題されます。

技術的なオペレーションの問題は、Photoshopなら「写真の木の上にある旗を消してください」というようなフォトレタッチや、「海の中の魚を増やし、クラゲを移動させてください」というような問題もあります。

杉原:それは楽しそう。私はそういう実技だけだと思っていました。

遠藤:実技はPhotoshopとIllustrator、それぞれマスク機能を使う問題も出されます。Illustratorではラフの絵をきれいに描き直す問題もあります。

杉原:今まで自分が使ってきた機能や知識の範囲で対応できるものですか? それとも受験勉強をしましたか?

遠藤:念の為テキストで勉強し直しました。「わー、こんなことができたのか!」というような衝撃的な発見もありました。Illustratorの“パッケージ”という機能はもっと早く知っていれば良かったと思いました。

杉原:私も知りませんがどんな機能ですか?

遠藤:印刷の入稿をする方は分かると思いますが、写真や文字を組み込んだグラフィックはIllustratorのファイルだけでなく、写真や画像など、全ての素材を一緒に送る必要があります。でも、リンクが切れていたり、最終版のデータではなかったり、違ったファイルを送ってしまうこともあり得ます。ですが、“パッケージ”という機能を使うと、新しいフォルダーの中に必要な素材データを全部まとめて、作業データのプロファイルをテキストに起こしたものも自動生成してくれます。

杉原:なるほどInDesignなどで膨大なデータを扱うときは不可欠ですが、Illustratorでポスターやリーフレットなどを作るくらいの情報量なら、私も従来の習慣で、手作業で行っていました。

*「パッケージ機能」は2012年にリリースされたIllustrator CS6 ( Ver. 16.1 )から搭載されました。

アドビ先生? その正体は人工知能

遠藤:Photoshopではフォトレタッチがびっくりするくらい簡単にできるようになりました。昔はスタンプツールで職人技のように地道に消していたものが、今は広い範囲を囲むだけでパッと変わります。

杉原:それでエッジはきれいに処理できますか?

遠藤:大丈夫です。アドビセンセイというAIがやってくれます。

杉原:AIですか? 先生というのはあだ名のようなもの?

遠藤:いえ、Adobe Senseiです。(https://www.adobe.com/jp/sensei.html

杉原:初めて聞きました!

遠藤:TVCMもありましたが、空を夕焼けにしたり、簡単にワンクリックでできるんです。

受験環境はまさかのWindows!?

杉原:すごく大変だった、ということはありますか?

遠藤:第一に、受験するパソコンが windowsで、次に、試験の対象となっているソフトのバージョンが普段使っているものではなかったことです。

*受験当時、バージョンはPhotoshop、Illustratorともに2020のみでしたが、2023年1月現在、2020、2021のどちらか選択できるようになっています。また、Photoshop、Illustrator以外に受験科目としてPremiere Proもあります。

 
杉原:それは大変ですね。遠藤さんはもちろんMacユーザーで、いつも最新のバージョンを使用していますし、最近は主にiPadでイラストを描きますよね。OSが違うとショートカットもまったく違うので、私だったら受験を諦めてしまうかも。

遠藤:教本もすべてwindowsのショートカットで書かれています。問題の中に、初期設定を変更する問題がありました。Macでは左上のメニューをプルダウンするのですが、windowsでは同じ場所にはないんです。焦って、片っ端からメニューを開き、ようやく一番左下に「環境設定」を見つけてなんとか間に合いました。

杉原:タイムリミットがあるんですか?

遠藤:大切なことを言い忘れていました。試験は50分間で、開始するとカウントダウンが始まります。実技にどれだけ時間がかかるかわからないので、時間配分のため、前半の設問に早く答えられるよう、頭の中を整える必要がありました。

杉原:すごいプレッシャーですね! 満点は何点ですか?

遠藤:1000点です。

杉原:遠藤さんの点数を聞いてもいいですか?

遠藤:Photoshop が900点台で、Illustratorが800点台でした。合格ラインは700点です。自分は満点を取る気で取り組みましたが、教科書や過去問にも出ないような難しい問題もありました。また、Illustratorのほうが得意なので意外な結果となりました。

杉原:受験して良かった点はなんですか?

遠藤:背筋を伸ばして取り組んでみて、今まで自分がやって来たことで、正しかったことには安心感を持てたし、知らなかったこともプラスになりました。工芸在校当時はMacintoshⅡで、まだ色数も256色でAdobeも入っていませんでした。短大にApple Macintosh Centrisがあり、それからPhotoshopを使い始めて30年近く経ちますが、イラストを描くためだけという、偏りのある使い方をしてきたので、今まで使わなかった機能を知ることができて勉強になりました。

共に学び続けましょう!

杉原:また受験しますか?

遠藤:資格には3年の期限があるのでまた受けてみようと思います。

杉原:遠藤さんはすでにどちらのソフトも使いこなしているのに、アドビ認定プロフェッショナル受験すると聞いたときはおどろきましたが、資格を取得したことで、高い技術だけでなく強い自信を身につけられたように感じました。なにより学び続ける姿勢に私も刺激をうけました。お話を聞かせていただきありがとうございました。これからもいろいろよろしくお願いします。

情報提供のお願い

同窓生の中にはクリエイティブな領域に限らず、様々な資格に挑戦したり、リカレント教育を受けられた方が大勢いらっしゃると思います。
資格取得や学び直しに関する経験を同窓会に共有していただきたく、ぜひ情報をご提供くださいますようよろしくお願い致します。
情報投稿フォーム(https://www.kogeiob.com/info_entry/