都立工芸高等学校と築地工芸会(都立工芸同窓会)

工芸高校は、明治40年東京府立工芸学校として当時の京橋区築地に誕生しました。明治維新後、日本は急激な近代化の道を歩み始めましたが、当時明治政府は、欧米列強の帝国主義的な圧力のもと、いかに独立を維持し、国内の統一を保持するかという課題を突き付けられていました。そのため富国強兵政策や殖産興業政策がとられ、次々と官営工場、民営工場が建設されましたが、技術水準は低く、欧米諸国に指導を受けながらの創業であり、自前で工業技術者を育成することが急務となりました。

こうした時代背景の下、東京府立工芸学校が設立されたわけであります。創立の地、築地は当時日本一の文化街である銀座に隣接しており、生徒は通学の途次、本物に触れることができ、美術工芸的感覚を磨く上で大いなる刺激となりました。
関東大震災、先の大戦と二度にわたる未曾有の惨劇に見舞われましたが、工芸はそのたびに力強く立ち直り、この100年の歴史の中で2万人を超える優秀な卒業生を輩出しています。中には美術・工芸分野で文化勲章を受賞された方、人間国宝の指定を受けられた方、日本の山野を疾走する新幹線をデザインした方をはじめ、多くの方々が産業界、教育界等各界のリーダーとして活躍されています。 現在においても工芸高校は都下の中学生の羨望の的であり、毎年その自由で伸びやかであり、各人が明確な目的意識を持ち、切磋琢磨する校風に憧れ、優秀な生徒が入学してきます。 明治、大正、昭和、平成と工芸高校の歴史はまさに日本の近代国家への歩みと軌を一にするものであります。これからも時代の行く末を敏感に感じ取り、人間にとって真の豊さは何かを提言し、実現する学校として、21世紀の課題に積極的に取り組んで行ってもらいたいと思います。

(都立工芸100年の歩み・浦岡 勉 第21代校長の巻頭言より)