同窓生インタビュー-3 江戸の華 二人の芸妓 金太郎&すず音」(前半)

東京スカイツリーのほぼ真下に「向島」という花街があるのをご存じでしょうか。エグゼクティブの接待などで利用される高級料亭が軒を連ねるこの町では、唄や三味線、舞踊を披露する女性達が活躍しています。
3回目となる同窓生インタビューは、向島で芸妓(げいぎ)として活躍される同窓生、金太郎さんとすず音さんのお二人にお話を伺いました。今回のインタビュアーはミュージシャンであり音楽スクールの運営にも携わる西和(にし やわら)さんです。一般人がなかなか知ることのできない花柳界のことや、在校当時の思い出、現在に至るまでの道のり等のお話を前半と後半の2回に分けて掲載します。

語り手(左):
向島・金太郎(1986年・F入(※4))芸妓(※1)
語り手(中央):
向島・すず音(本名:宮尾純子 1993年・D卒)芸妓
聞き手(右):
西 和(1993年・F卒)ミュージシャン・音楽教室運営

※1:芸妓(ゲイギ)=芸者(ゲイシャ)の正式名称。

江戸の伝統「芸妓」の世界で、まさか?の繋がり

西 :前回は私がインタビューを受ける側でしたが、今回はインタビューをする側としてこの場を設けていただきました。今回は同級生で元音楽部員でもある宮尾純子さん、ではなく、「芸妓」向島・すず音さんと、その先輩芸妓さんである金太郎さんにお話しを伺うという、なんだか不思議な状況に少々困惑気味ではありますが(笑)どうぞ宜しくお願いします。
                                           
すず音:そうですね(笑)、宜しくお願いします。

西 :お話を聞かせていただく場所は、すず音さんの芸妓の先輩、金太郎さんのお店です。そして、金太郎さんも工芸生だったという! お二人はずっとお知り合いだったんですか?

金太郎:それがお互いに知らないまま、笛のお稽古が一緒で、ある年の忘年会で「出身高校は?」という話になって、「え?工芸!?」って。

すず音:私はこの世界に入るときに「元工芸生の芸妓さんがいる」って聞いていたので、ずっと探していたんですが、まさかこんな身近にいたなんて、「お姉ちゃんだったんだ!!」って、びっくりしました。

西 :芸妓さんは皆さん「芸名」ですもんね。お仕事はもちろんお稽古の時から「芸名」なんですね。

すず音:そうですね、基本的にお互いの本名やこれまでの経歴の話をする機会はほとんどないです。

西 :それじゃあ、工芸出身の先輩を探すのは難しいですね。

金太郎:知り合ってからはとても気が合って、仲良くなりました。

芸妓さんは謎のかたまり・芸名の由来

西 : 芸妓さんの「芸名」ってご自身で決めるんですか?

金太郎: 基本的には、置屋(※2)のお母さんや料亭の女将さんが付けてくれます。見番(※3)に登録する芸妓さん同士で芸名が被らないようにします。私のいた置屋は「太郎」が付いた芸名を付ける決まりがあって、昔使われていた「金太郎」を付けてもらいました。元々江戸の芸者は男名前を付ける風習があったんですよ。現在は女性の名前を付ける芸妓さんも増えていますね。

西 :「芸名」にもそんなルールがあるんですね。

すず音:私は置屋のお母さんから「芸名は何がいい?」と言われたので「すず音」にしました。実はこの名前、川原由美子先生の漫画『前略・ミルクハウス』の登場人物の名前で、元は「涼音」がよかったんですが漢字だと画数が悪いと言われ、「涼ね」にしたら読みにくいと言われ・・・、最終的に「すず音」に落ち着きました。

西 :かなり和風な芸名なので、まさか漫画からの引用とは思いませんでした。

※2:置屋(オキヤ)=日本で芸者を抱えている家のことで、料亭・待合・茶屋などの客の求めに応じて芸者を派遣する。

※3:見番(ケンバン)=その土地の料理屋・芸者屋・待合 (まちあい) の業者が集まってつくる三業組合の事務所の俗称。唄や踊りなどのお稽古を行う場所。

「これだ!」と確信した芸妓の道

西 :お二人はいつから芸妓になろうと思ったんですか?

金太郎:私、実は工芸高校を中退していまして(※4)・・・工芸を辞める時点で芸妓になることを決めていました。

西 :え!?芸妓になるために工芸を辞められたと? それじゃあ、工芸在学中に芸妓へのコネクションがあったということですか?

金太郎:いいえ、それが全く無くて(笑)。

西 :えええっ!? では何がきっかけで芸妓さんになろうと思われたんですか?

金太郎:それが、たまたまテレビで観た新派のお芝居の中継に登場した芸妓さん役の方が、客に威勢よく啖呵を切っていたんですよ。それがかっこよくて、それを観た時に「こんな粋な女性がいるんだ、これだ!」って思って、それから電話帳で料亭や置屋を調べて電話して、当時の置屋に入ることができました。でも、都条例で18才未満ではまだお座敷に出ることができず、はじめはお勝手に入りました。

西 :工芸を辞める時に、先生やお友達にその理由は伝えたんですか?

金太郎:言いました「先生、向島で芸妓になるから学校辞めます」って。担任の青柳先生には「おマエさ〜、お前が入学したことで、入れなかったやつがいるんだゾ!」って言われましたけど、「すみません」って。

(一同笑)

すず音:でもそうやって、先生やお友達に伝えてくださっていたおかげで、私が芸妓になる時に、「工芸出身の芸妓さんがいる」って教えてもらえたんですよね。

西 :すず音さんは、いつころ芸妓さんになろうと思ったんですか?

すず音:私の場合は……



この続きは次回をお楽しみに。

※4:卒業していない同窓生は入学年を記載しています。